ビル管理士 2021年(R3年) 問62  過去問の解説【空気環境の調整】

内容に誤りがあった場合は、お手数ですがコメント欄で教えて頂けると助かります。

問題

空気調和における湿り空気線図上での操作に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

1.暖房時に水噴霧加湿を用いる場合、温水コイル出口の温度は設計給気温度より高くする必要がある。
2.冷房時の室内熱負荷における顕熱比SHF=0.8の場合、空調機からの吹出し空気の絶対湿度は室内空気より低くする必要がある。
3.温水コイル通過後の空気は単純加熱となり、通過前後で絶対湿度は変化しない。
4.還気と外気の混合状態は、湿り空気線図上において還気と外気の状態点を結んだ直線上に求められる。
5.冷水コイルによる冷却除湿では、コイル出口における空気の相対湿度は100%となる。

回答と解説動画

正解は(5)

1.暖房時に水噴霧加湿を用いる場合、温水コイル出口の温度は設計給気温度より高くする必要がある。
→ 正しい
水噴霧加湿を行うと、空気中に水分が加わり、その蒸発潜熱によって空気温度が下がります。そのため、加湿前に空気を設計給気温度より高めに加熱しておく必要があります。

水噴霧加湿について令和6年問70参照

2.冷房時の室内熱負荷における顕熱比SHF=0.8の場合、空調機からの吹出し空気の絶対湿度は室内空気より低くする必要がある。
→ 正しい
顕熱比(SHF)が0.8というのは、空調で扱う全熱負荷のうち、80%が温度調整(顕熱)に、残りの20%が湿度調整(潜熱)に使われていることを意味します。ここでいう湿度調整とは、主に夏の冷房時に必要となる「除湿」です。

たとえば、あるオフィス空間で、室内の目標温度を26℃、湿度を50%に保ちたいとします。ところが、外気は35℃・湿度70%と高温多湿。このままでは室内が蒸し暑くなってしまうため、空調機は空気を冷やすと同時に、水分(湿気)も取り除く必要があります。

ここで、空調機が吹き出す空気の状態を考えます。もし空調機が「温度だけを下げた空気」(=顕熱だけの処理)を室内に送ったとしたら、空気の温度は下がっても、湿度は下がりません。つまり、ジメジメしたままです。これでは不快感は解消されませんし、結露やカビの原因にもなってしまいます。

そこで、空調機からの吹出し空気には、温度を下げるだけでなく、室内空気よりも水分量(絶対湿度)が少ない空気を送り込む必要があります。つまり、除湿された空気が該当します。

顕熱比とは

空気調和(エアコン)では、空気の「温度」を変えるだけでなく、「湿度」も調整しています。このとき、温度の変化に使われる熱を「顕熱(けんねつ)」、湿度の調整に使われる熱を「潜熱(せんねつ)」といいます。たとえば、夏に部屋の温度を下げるために冷房をかけると、同時に空気中の水蒸気(湿気)も取り除かれます。この「除湿」も、実は重要なエネルギーを使って行われているのです。

そこで登場するのが「顕熱比(SHF)」という考え方です。顕熱比は、空調で使われる全体の熱量のうち、どれだけが温度調整(=顕熱)に使われているかを示す比率です。数式で表すと「SHF = 顕熱 ÷(顕熱+潜熱)」という形になります。たとえばSHFが1.0であれば、すべての熱が温度調整に使われ、加湿や除湿といった湿度調整は一切不要ということになります。逆にSHFが0.8なら、全体のうち80%が温度調整に、残りの20%が湿度調整、つまり加湿または除湿に使われているという意味になります。

日本の夏のように蒸し暑い気候では、冷房時に室内の湿気を取り除く必要があるため、SHFは1.0より小さくなります。一般的には0.75〜0.85程度が多く、これは全体の熱負荷のうち15〜25%が除湿に使われていることを意味しています。つまり、夏の冷房では、単に涼しくするだけでなく、湿気を取ることにもかなりのエネルギーが使われているということです。

3.温水コイル通過後の空気は単純加熱となり、通過前後で絶対湿度は変化しない。
→ 正しい
温水コイルは水分を加えたり除いたりせず、空気を暖めるだけの装置です。したがって、通過前後で絶対湿度は変化せず、横方向の直線(等湿線)に沿った変化になります。

4.還気と外気の混合状態は、湿り空気線図上において還気と外気の状態点を結んだ直線上に求められる。
→ 正しい
空気同士の混合は、湿り空気線図上で2つの状態点を結んだ直線上に中間点として現れます。混合比(例えば外気:還気=3:7)によって、線分上の位置が決まります。

5.冷水コイルによる冷却除湿では、コイル出口における空気の相対湿度は100%となる。
→ 不適当
冷水コイルによる除湿は、空気を露点温度以下まで冷やすことで結露させ、水分を除去しますが、出口の空気の相対湿度が100%になるわけではありません
実際には、バイパス空気(コイルを素通りする空気)の影響で90〜95%程度の相対湿度になることが多く、これは冷却効率や風速、コイル設計に左右されます。「常に100%になる」という記述は誤りです。

ヘタ・レイ

令和5年問63でも似たような論点が問われています。

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